迫られる人事制度と看護師キャリア開発の見直し

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
キャリアニーズの答えようとしている看護師

現在、日本のみならず世界中が高齢化、少子化、医療費の要抑制という共通の課題を抱えている。そして、医療サービスの質を落とすことなく医療費の伸びを抑制する方策の立案、断行を迫られている。

この問題は、病院経営に大きな転換を追ってきている。たとえば前述したように、病院は非営利組織という名のもとに、長い問競争原理にさらされず年功型人事制度を保ってきた。高度成長期においては経済成長率は常に右肩上がりで、 この時期には年功型人事制度はむしろ企業に貢献した制度であったといわれている。

病院だけは年功型人事制度を維持

しかし、1990年代に入り、高い経済成長率は望めなくなり企業が年功型人事制度から能力主義人事制度へと、さらには成果主義人事制度へと人事制度を転換させていくなか、病院だけは旧態依然とした年功型人事制度を維持してきた。

しかし、1990年までは常に右肩上がりだった病院数や患者数は、 この期を境に下降、1993年には病床数も下降局面に入り、右肩上がりを示しているのは病院負債額と病院倒産件数だけであるとの報告もある。病院といえども年功型人事制度を見直さざるを得なくなっている。

病院が本格的な淘汰の時代を迎えた背景には、薬価基準(薬の公定価格)引き下げや2002年度診療報酬改定以降続くマイナス改定で収益にかげりが出ていることがある。また、2006年の診療報酬改定で看護師配置7対1の新しい看護体制が導入され看護師が奪い合いとなり、人員が確保できず経営破綻に至る医療機関は増加傾向にある。

病院は自らの経営努力だけが生き残りのカギであるということを自覚しなければならない時代になった。このような経済的状況から、人事制度と賃金制度の見直しが病院経営者に迫られている。これまでも民間病院を中心に年功型賃金制度が見直されてきたが、この波は急速に公的な病院にも及んでいる。

また、年功型人事制度の見直しを迫られているのは事実であるが、一方では、個々人の能力や業績を公正に評価し賃金処遇にリンクさせることが、看護師のやる気や継続意識を向上させるという考え方が尊重されるようになったことも事実である。

もはや、勤務年数が上がるごとに給与がベースアップしていくという時代は望めなくなったため、限りある資源を公正に配分することに意義が置かれるようになったといえる。

看護師キャリア選択肢の拡大

保健、医療、福祉の統合が進むにつれ、ヘルスケア提供システムはこれまでの病院主体から地域や福祉領域へと広がってきた。それに伴い看護師としての職業選択肢の幅は拡大してきた。教育者、専門看護師や認定看護師などのスペシャリスト、訪問看護ステーションの起業・経営やケアマネジャーヘの就業、一般社会での就業、海外の大学への進学・就業、行政分野への就業などである。

看護師教育が一昔前のように職業教育であった頃は、即戦力になる病院看護師の養成に重点が置かれていた。このため、病院看護師以外の選択肢は少なかった。また、臨床側も幅広い選択肢を容認せず、期待の幅は極めて限定されたものであったように思う。

現在は看護師が不足状態で、どの病院も看護師の人手不足で、たとえ看護師を雇用してもキャリアアップへのニーズが高まる一方だ。看護師不足が原因で社会損失年間600億円!看護師は辞めれないでは看護師不足の原因、対策を詳細の解説している、是非とも参考にしていただきたい。

臨床現場は忙しく、常に人手不足の感から抜け切れず、今ある人材を活用することに精一杯で、多様な選択肢を容認できるだけのキャパシテイを持ち合わせていなかった。

キャリアニーズは高いが看護師不足でキャパシティがない

一方、基礎教育を終えたばかりの看護師や、若い年代層の看護師には多様な人生設計があり、臨床現場と彼らの多様なキャリアニーズのあり方には少なからず不協和音が生じているようである。

看護師としての実力も人望もある者に限って、職場を離れ次のステップを考えるようになる。彼らへの支援を惜しみなくしてあげたいと思うが、師長の立場となると話は複雑である。中堅の彼らに今辞められると、病棟の実践力の総和はかなリレベルダウンするからである。

そこで、無理を言って、退職を引き延ばしてもらったりすることになる。もちろん、そのためにはこころゆくまでの話し合いと一応の合意が必要なのはいうまでもない。しかし、どこかに割り切れないジレンマが生じる。

スタッフのキャリア開発について師長とスタッフの利害関係を超えて相談に応じることは、 きわめて困難であるとの思いが強かった。

このように、実際の臨床での多様な看護師ニーズに応えていくキャパシティを持つにはまだまだ問題が残っているようである。しかし、病院看護師としての体験をもとに多様な就業選択の機会が広がるとすれば、 もっとこの問題を深く掘り下げて、考え直してみる必要があるだろう。

看護系大学生の多様な価値感

一般の大学生と比べて、将来看護職に進むという方向性が明確であるはずの看護系大学生にも、多様な価値観があるようである。たとえば、看護学生の中には経験がないにもかかわらず、メディアや教科書で学んだ知識で、「将来訪問看護ステーションを経営したい」「ホスピスに進みたい」「発展途上国で海外青年協力隊員として働きたい」「アメリカで看護師になりたい」といった将来設計を抱いている者が少なくない。

学生たちの中にも、1年間アメリカで語学研修をしてから就職を決めようとする者、早く訪問看護関係の起業家になりたくて新入時代からそのための専門的な教育を受けられる病院を選んで就職する者、4年制大学を卒業して一般企業に就職したが、知人や家族の闘病生活を経験して看護系大学に入り直した者など、 さまざま
な者がいた。

このように、個人の生き方や価値観が多様化するなかで、人生に対する満足感が重要視されてきている。自分の人生を主体的にデザインし、 自分で計画に乗せていける看護師も増えてはいるが、一方ではまだまだ組織に依存している看護師も多い。

そもそも、 自分の人生をデザインしたり、キャリアを選択したりする「自己決定」なる習慣は、日本の今までの雇用形態には馴染まなかったからである。

働きがいを求めての就業選択

失われた10年(大卒者の就職氷河期)からはいったんもちなおした日本経済であるが、2008年末より、アメリカ発の世界同時不況のあおりを受け、企業は大量解雇を急増させている。昨今の失業率は4.1%(2009年1月現在)であり、 この先は上昇が予測されるが、 この高い失業率の中核を成しているのが若者と中高年層である。

新採用者の1年以内の離職率は、厚生労働省職業安定局の集計「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」によると12.9%(2007年度)であった。また離職理由は仕事内容や労働条件が合わないとするもので7割を超える。

また、中高年層の失業率の高さは、 グローバリゼーションや情報化、技術の進歩に伴い、今や終身雇用の雇用体系のなかで経年的に培ってきた中高年層の能力と、企業が求める能力との間にミスマッチを生じてきていることが原因である。したがって企業はリストラクチャリングという名目のもと、中高年層の解雇を推し進めてきた。

また、もう一方の若年層の失業率の高さは、自らが進んで退職した者や、就職をせずフリーターという状態に自らを置いているモラトリアム世代の存在が原因であったが、最近では大企業の大量解雇のなかで働きたくても働けないという状況が生まれ、それが原因になるとともに、「格差」と「貧困」を生む大きな社会問題ともなっている。

まとめ

看護師の世界においては、産業界のように就職して1年以内に見切りをつけて辞めていく者は多くはないが、就職3年目が退職に踏み切るかこのまま続けるかの分岐点になるようである。

退職理由も産業界のそれとは異なり、表向きは結婚や他の職場への就職などが多いようである。しかし、実際は仕事への不満や職場の人間関係に悩んだ結果であったり、奨学金の返済のめどがつき親元に帰る、専門看護師をめざして進学をする、などの理由が多いと聞く。

看護師組織にも、従業員のワークライフバランスや生涯学習ニーズヘの対応が迫られているといえる。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>