看護師雇用のヒューマンリソースマネジメントとは何か

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看護師雇用のヒューマンリソースマネジメント

病院の中で最も人数の多いのは看護師組織である。病院も一つの経営体であるが、企業のように利潤の獲得を主目的とする経営組織と違い、病院は非営利組織であるため、経営体としての目的や構造、経営管理上の問題点も大いに異なる。

組織のビジョンや経営目標の達成に向けて、人材の獲得、活用、育成、管理などを中長期的視点から戦略的に行っていこうとする考え方。一般に、人的資源管理、人材マネジメントと訳す。 従来型の「人事管理」は管理志向が強く横並び的であったのに対し、HRMは「人材」に対する確固たる理念と競争優位に立つための独自性が求められる。
しかし、企業であっても病院であっても、社会的に意義と必要性を認められた組織目標を達成するために存在する点では同じである。経営活動を考える場合には、まず経営資源を考えるものである。 コトバンク

経営資源には「ヒト・モノ・カネ・情報」があるといわれる。しかし「モノ・カネ・情報」という資源も結局は「ヒト」が扱うものである。したがって、経営資源のうち最も重要なのは「ヒト」なのだということになる。そういう意味では人とは根源的に重要な資源であるといっても過言ではない。

しかも病院組織の中で、その人的資源を最も多く抱えた組織が看護部なのである。

また、看護師という人的資源は、患者や家族という人を対象にサービスを提供することで病院の組織目標を達成するものである。つまり、人が人を看護し、その看護サービスを提供する人を人が育成することで、病院組織の目標を達成するという大きな役割を持っている。

人材一人ひとりを重視

シャイン(E.H.Schcin)によれば、ヒューマンリソースマネジメント(Human RcsouК cs Managcmcnt:人的資源管理)とは、個人と組織がともに進化するシステム(キャリア・ダイナミクス)であるとされている。

そして、その個人と組織の将来の要求をいかに合致させ、調和させ得るかが課題であり、「人的資源計画。開発システム」を個人と組織の相互作用過程のモデルとして提示している。またこの言葉は、企業と従業員(すなわち組織のヒューマンリソース)との関係のあり方に影響を与える経営のすべての要素を統轄する言葉であるとされている。

従来「人的資源管理」といえば、企業における人事労務管理を指す言葉として使われてきた。あえて、筆者はここで「ヒューマンリソースマネジメント」という言葉を使いたい。それはなぜか。従来の人事労務管理とどこが異なっているのであろうか。

アメリカにおいて発達したこれまでの人事労務管理論は、業績評価や給与査定などの方法論に視点を狭く絞ったものがほとんどで、従業員と企業との関係がどうあるべきか、どのようになり得るかという本来的に重要な問いをせずにきた。これに対しヒューマンリソースマネジメントの考え方は、人的資源を「社会的財産(ソーシャル・キャピタル)」としてとらえることから始まる。

この考え方は、従業員を単なる予算上の変動費とは考えない。むしろ、従業員は組織にとっての社会的財産であり、先取り的投資によって採用され、そのあとずっと利益を生み出してくれる財ととらえるのである。しかもこの財は、メンテナンスや時代の変化の要請に応じた再教育が行われないと、すぐに質が低下したり時代遅れになり、さらにその過程においてリスクも伴いやすい。

したがって、ヒューマンリソースマネジメントには長期的な展望に基づいた戦略的思考が必要だと考えるのである。しかし、近年は組織目標を達成するための資源としての役割が強調され、資源活用方法には、成果主義やコンピテンシー(高い成果を実現していくことができる行動様態や行動力)などが適用された。

その結果、すぐ目に見える形での成果を求めるあまり、経営資源として人をとらえる視点が強まり、個人の存在を軽めにとらえてしまう傾向が生まれたり、組織側の戦略達成ヘの貢献度によって人材の資源としての価値が決まってしまうなど、人材育成において混乱を生じている側面が見受けられるようになった。

たとえば、企業では当たり前になっている成果主義人事が、人も企業も成長させる人事制度として適切であったかという問いがなされている。そこで、組織の目標に向かって成果を出し貢献するという短期的な視点と、キャリアを通じて人材としての成長を支援する「キャリア成長支援」を含む長期的な視点という2つの視点から見ていくことで、本来の意味での「ヒューマンリソースマネジメント」について考えてみたい。

ヒューマンリソースマネジメントの基本制度

ヒューマンリソースマネジメントの基本制度には、募集から採用に至る雇用管理制度、教育訓練制度、配置および昇進制度、人事考課制度、賃金報酬制度、福利厚生制度、労使協議制度など人事労務管理に必要なあらゆる制度が含まれる。

しかし先述したように、長期的な従業員一人ひとりのキャリアの成長支援を視野に入れたヒューマンリソースマネジメントは、まず従業員を社会的財産ととらえることから始まる。そうしたとらえ方が生まれた背景には次のようなものがある。

1.企業の人事労務施策に対する労働組合の影響力低下

労働組合の影響力が強い場合には、経営側は労使の力関係を重視して人事労務管理を行ってきた。しかし昨今では労働組合の組織率も低下し、存続すら危うい企業も出てきている。このような状況下において、経営側の視点からより合理的な人事制度の導入あるいは変更を促すように変わってきたのである。

2.夢多様な労働力と雇用形態の出現

これにより、幅広く労働力を把握し、対応することがふさわしいと考えられるようになった。

3.妻人事労務管理に対する考え方の変化

人事労務管理は、これまでのように企業の狭い経済的視点から見るのではなく、個々の企業の経営戦略と結びつけて考えていくことが望ましいと受け止められてきている。病院施設においては、経営戦略と結びつけてヒューマンリソースマネジメントを考えていこうとする機運は企業に比べるとまだまだ遅れているが、今後、事情は大きく変わるだろうと思われる。

経営的手法がこれまでになく強く意識されてきている今日、経営側から合理的な人事制度を導入しようとする考え方はすでに意識されつつあり、企業におけるヒューマンリソースマネジメントのあり方を参考に、病院独自にそれを打ち出していく時期に来ていると思われる。さらに、長期的なキャリア支援の視点に立った、看護職の人生の節目に生じるキャリアニーズや生活とのバランスなどに対応できる仕組みづくりも望まれている。

日本的雇用慣行とヒューマンリソースマネジメント

先に述べたように、個人と組織との関係について、シャインはヒューマンリソースマネジメントのモデルを示した。現在の企業におけるヒューマンリソースマネジメントのシステム化には、そのシャインの個人と組織の相互作用過程という考え方が色濃く取り込まれている。

しかし、この欧米型の考え方は、「個人の自律」あるいは「個人の自由」というものが保障されていることを前提として成り立つものである。果たして日本の場合、個人と組織というパラダイムでものを考えたとき、組織の中で個人が自律的に生き、自由が保障されてきたといえるのだろうか。

それを知るには日本的雇用慣行というものの正体を解き明かす必要があるだろう。

一般に日本的雇用慣行には、「3種の神器」と呼ばれる「終身雇用制度」「年功序列制度」「企業別組合」という特性がある。終身雇用制度は現在の日本の企業では徐々に崩壊しつつあるが、病院をはじめとする非営利組織にはまだまだ根強く残っている。

この制度では、4月に新採用者を一括採用したならば、よほどのことがない限り解雇しない。愛社精神といわれる精神構造はここから生まれる。また年功序列制度では、個人が仕事をどれだけできるかという能力や勤務成績などで処遇をするのではなく、性別や学歴、経験年数という属人的な要素で評価し、処遇する。

まとめ

こうした日本特有の雇用慣行には、日本経済の高度成長期を支えてきた実績はあるが、低成長期やマイナス成長、グローバリゼーションが進むなかでは、急速にその効用が疑問視されてきている。また、これらの制度は日本の風土や精神構造が作り上げてきたものだが、その意味もまた根本的に問い直されつつある。

この日本的雇用慣行の特徴と、雇用システムの変遷についての研究は、今後のヒューマンリソースマネジメントを考え、構築するうえで不可欠のものである。

またそのなかで、病院組織がどのような位置づけにありどんな課題を抱えているのかも、同時に考えていきたい。

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