未熟な看護師必見!「これからの看護」のヒント

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私も早く一人前になりたい

パトリシア・べナーという偉い学者が、From Novice to Expert : Excellence and Power in Clinical Nursing Practice という名著を世に出したのは1984年のことである。

それが、「べナー看護論-達人ナースの卓越性とパワー」いいう表題で、日本語で読めるようになったのが1992年。

べナーは、チェス競技者やパイロットを対象にした調査から明らかになったドレイファスモデルと呼ばれる技能修得モデルを用い、看護への適用を試みた。

その結果、ドレイファスモデルと同様に、看護師も「初心者」「新人」「一人前」「中堅」「達人」というレべルを経て技術を修得していることが明らかになったのである。

べナーの考え方を臨床に持ち込んだ病院では、「私は一人前」「あなたは新人」「彼女は中堅」というように、技能修得レべルに応じてナースを分類するようになった。

パトリシア・ベナーのプロフィール
パトリシア・べナー米国カーネギー財団上席研究員。カリフォルニア大サンフランシスコ校看護学部名誉教授。米国看護アカデミー(the American Academy of Nursing)フェロー。王立看護協会(the Royal College of Nursing)名誉フェロー。
バサディナ大で看護師になる教育を受け,カリフォルニア大バークレー校で博士号を取得。カリフォルニア大サンフランシスコ校看護学部で研究に従事。社会科学者,人文学研究者であり,経験豊かな看護師,専攻科長経験のある教授でもあった。
出典:医学書院

「一人前」の2つの意味

「一人前」は、「新人」より技能が上だが「中堅」よりは技能が未熟な看護師の代名詞として使われていることになる。他方、べナーの考え方が紹介される前から「一人前」という言葉は使われてきた。

 パトリシア・ベナー (Patricia Benner)の技能習得の段階

パトリシア・べナーのnursing-practice

何もできずにオロオロする毎日を過ごす新人は「私も早く一人前になりたい」とつぶやいてきたし、自分を情けないと嘆く看護師に「もう一人前なんだから、しっかりしなさい」と師長がハッパをかけてきたことだろう。

このように使われる「一人前」は、辞書の力を借りれば、”技芸・学問などが一応の水準に達していること” (大辞泉)や、”技芸などがその道の人間として通用するほどになっていること”(大辞林)を意味している。

ここでは、べナーの考え方を押さえつつ、後者の方の「一人前」の意味についてもう少し考えて納得できる答えをだしたいと思う。

本人が思う「一人前」と周囲が思う「一人前」

「一人前」になるということは、「半人前」からの成長を意味するため、キャリアを考える上で重要な概念だと思われる。ところが、どうなれば一人前なのかという定義は、あるようで見あたらない。

例えば、作法に厳しい禅宗では、音を立てずにタクアンが食べられるようになったら僧侶として一人前だとか、トレンディ・ドラマのAD (アシスタント・ディレクター)は、美味しいロケ弁当の手配が迅速にできれば一人前だとか、古本屋は客が来ても知らんぷりができて一人前だとかいわれる。

プロフェッションフッドの研究

プロフェッションフッドの研究

そこでご紹介したいのが、プロフェッションフッドの研究の一部だ。研究のプロセスにおいて、さまざまな看護師に実施したインタビューの一部を紹介したい。

インタビューの項目は、かなりたくさんあるのだが、そのうちの1つに「あなたは自分を一人前の看護師だと思いますか」という質問がある。そ
れに対して、表1は自分を一人前と思わない人の発言例であり、表2は一人前だと思う人の発言例である。

表1「一人前」だと思えない理由

1年目の時は3年目の人をみて一人前だと思ったけど、3年目になったら5年目でも一人前じゃないと思うようになった。(経験3年)
技術をこなすことではなくて、患者に合わせて工夫・創造ができないと一人前じゃない(経験3年)
自信をもって後輩指導ができないので、一人前とは思わない(経験4年)
業務はこなしているけど、看護はできていない(経験4年)
上がたくさんいるので半人前でしかない(経験5年)
狭義のー人前は、せつなくこなすことだけど、本当の意味の一人前ではないと思う(経験7年)
管理職を始めたばかりで、もっと何かできるのではないかと感じている(経験12年)

 

表2「一人前」だと思える理由

急変のポイントがわかり、経験が積み重なり、自分の判断が求められる場面が多くなり、他のスタッフが何を考えているのかがわかったときに一人前と感じた(経験12年)
業務やチームに慣れるために敷かれたレールの上を走るのではなく、看護の本当の楽しさがわかった7、8年目のときに一人前だと感じるようになった(経験15年)
管理職としてはまだまだだが、80%は一人前だと思う。人間と本当に向き合って看護ができると思えるようになったし、経験したことを技術や言葉で下に教えることができる(経験23年)
自分では一人前とは思っていなかったけど、自分が患者に頼られていることが実感でき、後輩に自信をもって指導できると自覚したときに一人前だったのだと気づいた(経験33年)

「一人前」という自覚には至っていない

これらを見比べてみると、看護師として相当年数の経験を経なければ、自分を「一人前」とは呼べない傾向があるようだ。べナーは、「一人前とは、同じ状況もしくは、類似した状況で2~3年仕事をしているナースによって代表される」と述べているが、実際にはその程度の年数ではとてもではないが「一人前」という自覚には至っていない。

あらためて、べナーのいう一人前との違いがわかる。他人がいくら自分のことを「一人前だと評価しても、看護師が自分で自覚する「一人前」とはもっと遠くて重たいもののようだ。

自分が「一人前」になったと思えるとき

世の中には、自分のことを一人前だと豪語する半人前看護師もいると聞く。経験年数だけでパフォーマンスを評価することは避けたいが、それでも2~3年経験を積んだ看護師が「私は一人前です」と言うと、どこか嘘っぽいように感じる。

免許をもったプロフエッショナルなのだから、そう言えるくらいの気概があってもいいじゃないかという意見もあろうが、一人前という言葉にはなにかしら円熟味を感じさせるような意味合いがあるため、違和感は払拭できない。

表2をみても、経験の蓄積から得た知識や技術を後輩に自信をもって伝えられることが、一人前だと自分を評する際の共通点として見い出せる。一人前には、ある程度の年数を経て円熟していくことが必要だと言えよう。

一人前になるとは後輩を育てられること

しかし、年数が経てば人は入れ替わる。順番からすれば、先輩が先にいなくなる。一人前の先輩が、経験の蓄積から得た知識や技術を後輩に伝授するということは、自分の代わりを育てているとも言えるのだ。

一人前になるとは後輩を育てられることという考え方を、単純な数式で表してみよう。数式は次のとおりだ。

1人(今の自分) +I人(後輩)-I人(将来去っていく自分) =1人(残った後輩)=これでやっと一人分(一人前)

足し算と引き算だけで成立させているこの数式は、今の自分は後輩を育てているが、いずれ自分が先に病棟を去るので、育てた後輩がそこに一人分(一人前)として残ることを表わしている。

自分も先輩にそうされてきたし、自分が育てた後輩も次の後輩に対して同じことを繰り返す。後輩を育ててこそ一人前だという言葉の響きは、数合わせとしても成立しているのだ。

もっとも、指導すべき後輩は1人だけじゃないとか、今の自分は二人分くらい働いているといった状況の複雑性はまったく考慮していないから、えらく大雑把な数式ではある。

「一人前」とは成長し続けること

もう少し、一人前という言葉の深さについて考えてみよう。

プロフエツションラッドの研究では、表中の表現以外にも「一人前はない。本当の一人前は完成に近い看護師だけど、完成することはありえない。どこまでも高め、深めていく職業だと思うから」(経験7年)とか、「どの時点が一人前なのかはっきり言えない」(経験12年)といったような言葉も聞かれた。

これらの表現から、真の「一人前」というのは、「一人前」になるべく努力する姿勢を保ち続ける人がイメージされる。いつまで経っても半人前に甘んじるのは困るが、自分を一人前だと思った瞬間に努力と縁を切るようでも困る。

たとえ一通りの業務はこなせていても、極みに近づくように常に研鑽を惜しまない姿に、人は畏敬の念をもって「一人前」を感じるのであろう。

まとめ

人によって「一人前」の捉え方が異なるし、他者からの評され方も違う。
まずは、自分が「一人前」なのかどうかを自問してみてほしい。もしも、すでに自分は一人前だと評価できるなら、これから先に続く看護師としてのキャリアをどう歩もうとしているのだろうか。

また、まだ自分は一人前ではないと評価したのなら、どうあれば一人前なのか。この道で一人前になりたいと思っているのか。そんなことを問うてみてほしい。

たとえ、今、「一人前」でもそうでなくても、自分にとっての「一人前」のありようを考えることが、看護師としてのキャリア発達に相当大きな意味をもつと確信している。

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