小児科への転職を考える看護師が忘れてはならないふたつの社会問題とは?

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少子高齢化が進んで、現代の小児科にはとてもむずかしい問題がたくさんあります。多くの病院で医師や看護師が不足する状況が続くなか、小児科は一部の看護師から人気を集めていますが、「子どもが好き」というだけでは小児科への転職はかないません。

現代の日本で小児科への転職を考えるとき、忘れてはならない問題があります。ひとつはモンスターペイシェントの問題です。この問題は他の診療科でも同様に起こりえますが、小児科の場合はそれが患者の親や家族であることです。

そしてもうひとつが児童虐待です。児童の虐待死は年間50人前後でこの10年ほど推移しており、ここ数年だけみれば減少傾向にあります。一方で虐待の報告数は右肩上がりで増えており、実際の虐待件数は増えていると考えられています。

どちらの問題もさまざまな要因が背景にあり、ひとくくりに語れるものではありませんが、根底にある共通項は確かに存在しています。また、小児科においてはどちらも患者自身ではなく、その親や家族に対応していかなければなりません。「子どもが好き」というだけでは小児科の看護師が勤まらない理由はそこにあります。

1-1 子どもを甘やかす親、虐待する親

児童相談所への児童虐待に関する相談は、平成2年に1100件程度だったのが平成25年には7万4千件近くにまで増えました。このように虐待が急増しているのは、これまでもあったがわからなかった虐待が顕在化したからだ、という意見があります。

それも確かにあるとは思いますが、逆に社会的に顕在化したのは虐待の実例が増えたせいだともいえるでしょう。これはモンスターペアレントにも同じことがいえるのではないでしょうか。これまでも存在していたけれど、その実数が増えたために顕在化し、さらに今までかくれていた事例が明らかになる…それもまた真理ではないでしょうか。

子どもを虐待する親と、周囲を自分の視野に入れないほど子どもを甘やかす親たち。両極端ですが、この両者には共通する何かがあるような気がしてなりません。

他の診療科では患者本人がモンスター化するモンスターペイシェントですが、小児科では患者の親がモンスターとなるので、ここでは学校などと同じモンスターペアレントとして考えます。

1-2 なぜ甘やかすのか

極端に子どもを甘やかす親の場合、実は自分自身を甘やかしたいのではないでしょうか。最近は見かけませんが、昔はおもちゃ売り場の前で駄々をこねる子どもが少なからずいたものです。こんな時おもちゃを買い与えてしまうのは、多くの場合「駄々をこねる子どもを説得する」のが面倒だからでしょう。

面倒だから、と子どもを説得する努力を惜しんでおもちゃを買い与える行為は、実のところ子どもではなく親が自分を甘やかしているといえます。この行為を繰り返せば子どもは、ごねてみせれば自分の要求は通るものと思い込んでしまうでしょう。

そのくらいは誰にも分りますし、世の中はごねたところで要求が通るほど甘くはないと知りつつ、まだ子どもだからと問題を先送りしたり、説得するのが面倒だからと楽な方法をとってしまう。自分の子どもの将来に向き合おうとしない、あるいは子どもの将来を明確に思い描けない親が増えているような気がします。

子どもを甘やかす親が増えた、という声をよく耳にします。しかし、本当は子どもではなく自分を甘やかす親が増えているのです。そしてその責任はその親の親世代にあるのではないでしょうか。「甘やかす親」を育てたのは、その親の親世代なのですから。

1-3 モンスターペアレント

もっとも、モノがあふれ、生活が豊かになるにつれ、我慢や忍耐など自分に厳しくする必要がなくなってきて、自分に甘い人が増えるのは当たり前のことかもしれません。かつては倹約が当たり前だった戦中派が、今やその多くが生活習慣病で高齢期医療問題の源となっているくらいです。

さらに、その後の世代では少子化が進んで、子どもの数がどんどん少なくなっています。出生率は1.5を割り込んだまま回復の兆しが見えていません。こうなると、ひとりの子どもにかけるお金も期待も大きくなってきます。

この「子どもにかける期待」が、モンスターペアレントと呼ばれる親たちは過剰で、子どもの人生設計を親が勝手に描いてしまっています。まるで子どもを自分の所有物としてとらえているかのようです。

彼らは、子どもを自分の思うとおりに動かすことが子どもの幸せだと思い込んでいるのですが、本当は自分の幸せのためだということに気づいていません。あるいは気づいていても、そのこととは向き合わないようにしています。

モンスターペアレントの周囲に対する過剰な要求は、実は子どもへの要求ではなく、自分自身に対する要求なのです。だから彼らは簡単には引き下がりません。モンスターペアレントにとって子どもは「自分そのもの」であり、「何よりも大切な自己所有物」なのです。

1-4 虐待する理由

一方、子どもを虐待する親たちはどうでしょう。彼らに虐待の理由を尋ねると「いうことを聞かなかったから」「しつけの一環」という答えが多いのには驚きます。そして、虐待を咎められると「他家の教育方針に口を出すな」「自分の子どもに何をしようと勝手」と、まさに、彼らにとって子どもは自己の所有物以外の何ものでもありません。

子どもたちが自分の思うようにならないことに腹を立てるのは、おもちゃ売り場の前で駄々をこねる子どもと同じです。おもちゃ売り場の駄々っ子は、せいぜい手足をばたつかせて泣きわめくことくらいしかできませんが、親の立場なら子どもにどんなひどいことでもできるのです。

もちろん、虐待の理由はひとつではなくさまざまな要因が考えられますが、モンスターペアレントと共通するのは子どもを自己所有物ととらえていることです。ただし、虐待する親にとっては、子どもは「大切でない」あるいは「不要な」所有物である場合が多く、一見するとモンスターペアレントとは正反対に見えます。しかし、どちらも子どもの将来にとって良くないことに違いはありません。

児童虐待

出典:写真AC

1-5 親たちにも癒されない心の傷が

モンスターペアレントに育てられた子どもたちの中から、モンスターチルドレンやモンスター大学生が生まれてくることはよく知られています。また、親から虐待を受けた子どもが長じて、今度は自分の子どもを虐待するということもよくあります。

モンスターペアレントも虐待をする親も、普段はごく普通の社会人として暮らしていて、一見してそれとはわかりません。しかし彼らは、彼らの心の中にある自分でさえも気づかない闇に、時として飲み込まれてしまうのです。

そのときに犠牲となるのはほかならぬ子どもたちです。だから、子どもたちを救うことを使命とする私たち看護師を含む医療者は、患者の両親や家庭にも気を配らなければならないのだと思います。

2-1児童虐待の実態

児童の虐待については実態を把握することがむずかしく、実際にどのくらいの子どもたちが虐待を受けているかははっきりしていません。しかし、児童相談所への相談件数は年々増加しており、平成25年には7万件を超えています。

児童虐待件数

出典:厚生労働省 児童虐待の現状

平成11年に児童虐待防止法が施行されましたが、この法律は深刻化する児童虐待の予防と対応のために制定されました。児童虐待防止法では18歳未満を児童としていますが、平成2年に2850万人だった18歳未満の人口は、同法施行の翌平成12年には2300万人、平成25年には2000万人と減少を続けています。

それにもかかわらず児童相談所への相談が増え続けているということは、実際に虐待が増えているか、あるいはそもそも虐待の件数は多くあり、発覚する件数が増えているかのどちらかではないでしょうか。

2-2 母親が虐待者

児童虐待防止法においては18歳未満を児童とし、身体への暴行、児童へのわいせつ行為、減食や長時間の放置、心理的外傷を与えること、を保護者とその同居人に禁じていますが、悲しいことに虐待をする者は実母が最も多いのです。

児童虐待の現状

出典:厚生労働省 児童虐待の現状

物でたたいたり殴ったりする暴行はもとより、冬の寒空に裸で屋外に締め出したり、やせ細るまで食事を与えない、風呂の浴槽に沈めたり熱湯をかけたり、本当にひどい虐待が実の母親によって行われているのです。

子どもにとって絶対の庇護者であるはずの母親。自力で生きることのできない児童にとって唯一の心のよりどころである母親から受けるそのような仕打ち。テレビのニュースなどで虐待の報道に接するたび、身体の痛みやつらさと同時に、愛する母親から受ける虐待によって、子どもの心が粉々に壊されてしまうのではないかと本当に不安になります。

2-3 児童虐待と病院の役割

児童虐待防止法では、病院の職員や医師は虐待の早期発見と児童相談所への通告を義務付けています。身体的な児童虐待について医師の診断は欠かせないものとなっていますし、実際に病院の小児科に勤務する医師の79%が虐待を受けた児童の診療を行っています。また、75%の病院で被虐待児童の診療を行ったとしています。(被虐待児の医学的総合治療システムの在り方に関する研究、平成15年 社会福祉法人 母子愛育会)

しかし、実際に診療を行う医師自身は虐待にあまり関わりたくない、と感じているようで、その理由として「虐待の診断に自信がない」「多忙で時間がない」「家族とのトラブルを避けたい」などを挙げています。

東京福祉保健局

出典:東京都福祉保健局ホームページ

こうした現実を受けて、東京都福祉保健局では病院のための児童虐待対応のマニュアル化を進めており、「児童虐待にはチームで対応する」事を前提としています。

東京都の資料によれば、院内に虐待対策委員会を設置すること、虐待を判断するためのチェックリスト作成、スタッフ間で行動にばらつきが出ないよう基準を取り決めたマニュアル携行、を推奨しています。しかし、実際に患者や家族と応対するのは医師と看護師が最も頻度が高く、中でも看護師の注意深い観察が虐待の早期発見につながるといえます。

東京福祉保健局

出典:東京都福祉保健局ホームページ

院内虐待対策委員会を英語の頭文字をとってCAPSと呼ぶことがありますが、CAPSを導入した病院においても約半数がなかなか浸透しない、としています。やはりトラブルを避けたいという意識があるからか、委員会の構成メンバー間でも虐待診断に対しての姿勢に格差が生じているからだと思います。

そんなとき、CAPS内で大きな存在感を発揮すべきなのが看護師です。子どもの命を守ることが私たち小児科看護師の使命であり、仕事だからです。「子どもが好き」だけでは小児科の看護師が勤まらない理由をおわかり頂けるでしょうか。病気やけがが治った後も子どもたちが安心して安全に生きていけることが大切なのです。

2-4 虐待をやめられない親、親をかばう子ども

虐待の事例の中には、自分が子どもを虐待しているとわかっていて虐待を辞められない親がいます。そのことで思い悩み、自身も苦しんでいるのに、育児をしていると子どもの行動や言動にかっとなって手を上げてしまう。一度虐待を始めるとパニックになってしまい、自分自身を制御することができない。そんな親御さんが少なくありません。

少子化で兄弟が少なく、学校や社会でも希薄な人間関係しか築けず、自分以外の他者と濃密にかかわったことのない若い親たちが、自分の子どもとどう接したらいいかわからない。子どもを自分の思うようにコントロールすることなど不可能なのに、そのことが理解できず思い通りにならないからと虐待してしまう。

ただ、虐待に至る素因はあったとしても、自分で自覚していながらやめられない虐待の場合は、なんらかの肉体的精神的ストレスがあるのだろうと思われます。一方で子どものほうは、親を信じるしか術はなく虐待を受けるのは自分が悪いからだ、と思い込んでしまいます。

なぜか自分からひどいことを言われたり叩かれたりするのですが、子どもには理由がわからない。でも、罰を受けるということは自分が悪いからだ、と子どもは思い込んでしまう。だから、心の中で、「どうして?」「どうすればいいの?」と問いながらも虐待を受け入れるしかない。

虐待を疑う事例において、子どもに親からいじめられていないか?と尋ねられても、子どもは「いじめられていない」という答えしか持ち合わせていないのです。

まとめ

虐待の多くの事例では子供だけでなく、親もまた苦しんでいます。特にひとりぼっちで、家事と子育てに奮闘する若いママたちは、初めて接する子どもの行動は摩訶不思議なものばかりで理解するのもひと苦労でしょう。

私たち小児科のスタッフは子どもの病気やけがを治すのが仕事ですが、健康とは肉体だけのことではなく、心とからだの両方が健全であることをいいます。子どもたちの心が健全であるためには、お母さんの心と体も健全でなければなりません。

残念ながら、モンスターペアレントに子どもの将来について正論を説いても聞き入れることはないと思います。決してひとりで対峙せず、感情的にならず、毅然とした態度で淡々と
対応するしかありません。

虐待が疑われるケースではCAPSにおいて総合的に判断するのが前提ですが、緊急を要する場合には現場の医師と連携をとり各所への通告、通報を行うことが大切です。また、診察に際しては子どもだけでなく、親御さんとも十分にコミュニケーションをとって、その心身の状態や子どもとどのように接しているかをよくよく看なければなりません。

小児科というところは診なければならない病気の種類が本当に多くて、外来も病棟もいつもてんてこ舞いで毎日へとへとになります。でも、疲れ切った看護師やスタッフを癒してくれるのは、やっぱり子どもたちの笑顔。これから小児科への転職を目指すなら、つらくても頑張ろう、そう思わせてくれる子どもたちの笑顔を守ってあげてくださいね。

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